未来につながる理想の英語教育

子どもたちに必要な「読む力」とは

子どもたちに必要な「読む力」とは

小・中・高校生段階で習得すべき「読む力」を考えるとき、第一に必要とされるのは多量の英文を速読し、大意を把握できる能力です。我々が運営するEFFECT Schoolでは帰国生の英語力を測るアセスメントテストとして豪州のニューサウスウェールズ大学が30年以上に渡り運営しているICAS(International Competitions and Assessments for Schools)というテストを採用しています。例えば、このICASにおける日本の小学6年生にあたるGrade6の国語、すなわち英語の読解力テストでは、実に9題の長文が出題され、問題文を含めると約5400単語もの文章をわずか50分間で読みこなし、50問の問題を解かなければなりません。問題を考える時間を考慮すると最低でも1分200単語ぐらいのスピードで速読する必要があります。一方、従来の日本の英語教育では、単語知識と文法的な解釈をもとに日本語に置き換えつつ分析的に読み進めるためスピードは非常に遅く、1分200単語で読める生徒などなかなか育ちません。大学入試の長文問題で単語数が最も多い一つである慶應大学の総合政策学部や環境情報学部の問題でさえ1000語程度の長文が2題出題され、問題文を含めても3000語ぐらいの分量で、仮に1分200語のスピードで読めば、120分間の試験時間のうち、わずか15分で読めてしまうので、かなりじっくり問題に取り組むことができます。高校入試に至っては分量の多い早稲田高等学院でも2100単語程度で、上記のスピードなら60分間の試験時間内のうち10分程度で読めてしまいます。一方、文法学習中心に日本語に置き換える訓練のみを中心に学習した生徒たちは、こうした分量の英文を前にして、「なんという長文!!」とビビってしまうのです。高等教育が英語化していく中で、これからの子ども達に必要なのは“長文”などという概念を持たず、1分間に200単語以上のスピードで、英語の概念のまま文脈を把握し、趣旨をつかんでいく力です。それには優良なコンテンツを大量に小・中学、高校と段階的にレベルを上げながらインプットしていく必要があります。 次に重要なのはインプット、すなわちリーディングをする際にできるだけ正しい音を一緒にインプットすることです。そもそも表音文字である英語は、音をインプットすることで理解しやすくなる言語です。CDを聞いたり、音読したり、とにかく文字情報と同時に音声もインプットすることです。そして正確に音をインプットすることは、同時にヒアリング能力を高めることにつながります。そのためは自分で正しく発音できることが必要です。正しい発音とリズムとイントネーションで読める力をつけると同時に、段階的にレベルを上げながら音と文字を聞き、そして読む。こうしたトレーニングを地道に積み上げていくことで、大量の英文を速読でき、かつ聴き取ることのできる英語力が育成されていくのです。 海外で生活し、現地の学校で学んだ帰国子女たちはこの体験を意識せずとも必然的に、日常生活の中で積み重ねてきたわけです。そして、彼らは文法的理解なしで(実際に英検準1級レベルの小学6年生でも三単現のSの概念もルールも知らないのですが、体験的に正確に把握しています)ICASのような超長文も読みこなすことができるのです。英語を母語としない日本で生まれ育った子ども達が第二言語である英語を学ぶとき、小学生から中学生までに必要な英語力は、以上述べてきたような圧倒的な分量やスピードに耐えうるインプット能力(読む力、聴く力)です。そして、そのベースに基づいて高校段階で発信力、すなわち話す力、書く力を磨いていくと効果的で、かつレベルの高いアウトプットが実現できます。私たちが認識しておかなければならないのは、これからの子ども達の書いたエッセイを評価する審査官は、ネイティブの教師であるということです。ですからネイティブの教師を唸らせるエッセイを書けるように指導する必要があるのです。中学1年で英検1級に合格するような帰国子女たちは、やはり大量の英語の本を読んでおり、そういう子ども達が書くエッセイはシンプルで率直で、しかし幼稚ではなくナチュラルでネイティブのような自然な英文となって表われます。その背景には確実に大量のインプットがあることが見て取れます。 帰国子女なら小学6年までは、そうでない場合は中学3年までは、できるだけ異文化の詰まったコンテンツを音ともに豊富にインプットを積み重ね、そのレベルを思いっきり上げていくことに注力することが大切です。そして、その習慣を確立した上で、同時並行しアウトプットのトレーニングを重ねれば、彼らが将来、高等教育に「使える」英語力が習得できると確信しております。 最後にEFFECT Schoolの卒業生で学芸大附属国際に通う中学1年生の王子萌百さんの昨年12月24日に東京新聞に掲載された投稿文を紹介します。 「私は音読の素晴らしさを実感している。毎朝起きると音読をするようになって一年半になる。今では朝ご飯を食べるのと同じように当たり前になっているが、初めは嫌々やっていた。けれど、塾の宿題だったので仕方なくやり続けていくうちに、気がつくと読んだ文章がスラスラと口から出てくるようになっていたことに、とても驚いた。毎朝五分足らずでたくさんのことを覚えられる音読の力を実感した私は、それ以来、苦痛に思ったことはない。今は国連憲章の前文を覚えたところで、次はどんな分野にしようか考え中だ。何を読もうと、いつかは必ず覚えられることを知っているので、どんな文章でも楽しく読めるのだ。」 昨年、英検1級に合格した彼女の書くエッセイは、非常にナチュラルかつハイレベルで、EFFECT主催のコンテストでも最優秀賞を受賞しておりました。「読む力」の上に立つ発信力こそ、本物であることの一つの証左であると思います。