中学受験と帰国子女の英語
毎年2月前後になると小学4年生や5年生の保護者の皆さんから、中学受験(4教科型一般受験)に向けて塾の都合で英語を一旦停止する旨の連絡が入ります。ご家庭で検討された上での結論なので致し方ないのですが、今後の子ども達のアカデミックな将来を考えるとき、帰国子女の英語力がどれほど「宝」となるかを知る者として、残念な思いにかられます。 英語を辞めるように一様に訴える塾は、本当に帰国子女の持つ可能性を理解しているのでしょうか。また、今まさにダイナミックに変わりゆく大学入試と大学教育の現実を客観的に考慮した上で、そう主張しているのでしょうか。東大や早慶をはじめ上位の大学が次々に英語で行う授業を増やし、国際化を進める中で2020年以降はすべての英語入試がIELTSなどの海外留学型の外部試験に変わろうとしています。たとえばIELTSで6.0以上取れば、今でも早稲田の文化構想学部では英語は無試験です。6.0と言えば一般的に海外の大学にも入学できる英語力ですが、帰国子女(特に当校で小学4年レベル以上に在籍する生徒)たちは中学生の段階でこのレベルに達するのです。6.0どころか7.0に達する生徒も結構います。特に、スピーキングやリスニングでは圧倒的な力を発揮し、国内で普通に英語を学ぶ生徒たちには到底埋められない隔たりがあるのです。英語をやめろと軽々しく主張する人たちはこうした彼、彼女たちの持つ潜在的能力を本当に理解しているのでしょうか。私は帰国子女と非帰国子女の両方の英語教育に長年携わり、その優位性や将来性を確信しているのです。 また、英語に限らず、今回の入試改革では詰込み式の知識偏重型試験から、生徒の能力や中高時代の活動を多面的に評価し、思考力や表現力、問題解決力などを図る小論文や面接で最終的に合否を決定する方式に変わろうとしています。この新たな入試を迎える現在の小学生(かつ4技能バランスのとれた英語力を持っている帰国子女)たちが、今さら旧態依然とした4教科詰込み型の中学受験に取り組む必要があるのでしょうか。 さすがに私立の中高一貫校は、この流れを汲み、英語が特殊にできる子ども達を別枠で受け入れる利点を考慮し、既に首都圏でも90校以上が英語受験枠を設けています。しかし、残念ながらこの英・算・国3教科受験や英語+作文などの受験パターンが現在の4教科型の一般受験にとって代わるまでには、年々変化の勢いは増すとはいえ、まだ数年はかかると思います。そして、それまでの間は、帰国子女たちの貴重な体験やその中で身につけた英語力が中学受験の犠牲となっていくのです。中学、高校時代の環境が、子ども達に与える影響を考えると重要であることは間違いありません。しかし、一定レベルの学習環境や周囲の友人、先輩などの人間関係が保持できるのなら、せっかくの英語力維持を断念してまで中学受験に取り組む必要ないのではないでしょうか。今後益々、高校、大学、社会へと進むほどに彼らの英語力が活きてくるのは明らかなのですから。 以上、中学受験と帰国子女の英語維持に関して私見を述べましたが、個別には実に様々な事情やケースがございますので、一概にコメントしたり、判断できないのが現実です。当校の保護者の皆様はぜひ、いつでもご遠慮なくご相談いただければと存じます。