未来につながる理想の英語教育

大学受験英語の現状

6年後のセンター試験廃止と大学入試改革が発表され、英語の試験もIELTSやTOEFLなどの外部試験が重要視されていく方向性が示されましたが、現状の大学入試も当面は継続され、中高生、特に現高校生たちにとっては、乗り越えなければならない関門であることに変わりはありません。そこで、今回は大学入試における英語問題の現状をご紹介し、私見を述べたいと思います。

大学入試の英語の出題傾向は、文法・読解が中心というのが定番のイメージですが、実は早慶上理やGMARCH、国立トップ校レベルでは文法問題の比率はかなり低くなっています。以下、東大、慶応大、早稲田大の例をご覧ください。

■東京大学文科前期日程:文章要約や読解など長文5題が出題され、全体の約6割を占めます。他にリスニング問題と自由英作文が各2割ずつの問題配分。文法問題は文中の不要単語を指摘する形式で5%未満の出題。長文はさほど難解な内容ではないのですが、とにかく分量が多く、迅速な読解力が要求されます。

■慶応大学経済学部:長文問題では論文レベルのものが2題出され、読解力を試す問題と語彙、語法、同意表現などボキャブラリー関連問題が問われています。また、和文英訳と自由英作文がそれぞれ1題出題され、かなりこなれた英語表現力を要求しています。

■早稲田大学政治経済学部:論文レベルの長文3題と長い会話文1題が出題され、読解力を試す問題と語順整序による英作文問題が1割程度。そして100単語~150単語程度の自由英作文課題が1題出題され、英語表現力が試されています。

総括しますと、出題の大半は長文読解力にかかわるものであり、文法関連の問題は文法的判断を必要とする語順整序問題や語法、語彙に関する問題が1割に満たない程度で含まれていますが、豊富に長文を読み込んだ経験があれば文脈の前後から判断、推測できるものがほとんど。むしろ文法より英作文による表現能力を試す問題のほうが配点も大きく、重要であるといえます。

この内容を見れば見るほど、なぜ高校生があれほど文法に時間を割くのか、なぜあれほど書店の入試参考書、問題集に文法や語彙関連の本が多いのか、理解に苦しみます。入試問題を丹念に見ていきますと、作問者はより多くのレベルの高い文章を読みこなした経験を試す内容に注力していることがわかります。語彙や文法の知識よりも、まとまった文章のなかで文脈を把握し、論旨を素早くつかむ力、そのための語彙力や英文に触れた経験、こうしたものを読解問題や英作文によって試そうとしているのです。

4技能の観点から言いますとスピーキング力を試す問題が欠落しており、ライティングのレベルがさほど高くない、東大は別としてヒアリング問題も欠落しているので、試験として決してバランスが良いとは言えないのが事実です。しかし、大量の英文をスピーディーに読解する力やエッセイを書ける基本的な英語表現力を試すため工夫が凝らされています。問題は、多くの高校生たちの英語学習では、文法や単語の記憶に比重が置かれ過ぎており、学習方法や教材の選び方、使い方にもかなりの無駄があり、必ずしも入試で要求されている英語力に対応できていないという点です。

また、インプット能力の測定に偏り過ぎている現状の大学入試レベルをさらに超えて、スピーキングやライティングなど高度なアウトプット能力が要求されるIELTSやTOEFLに対応できる4技能を習得させるためには、少なくとも中学段階から高校まで長期的、段階的、計画的にトレーニングを実施していく必要があると実感します。