「未来につながる英語力」とは
「英語ぐらいしゃべれるように・・・」「外国人と気軽にコミュニケーション・・・」などあいまいなイメージが先行し、子どもたちにとって本当に必要な英語力が曲解され、そのための段階的アプローチがなおざりにされているケースがいかに多いことでしょう。受験英語と英会話という両極端の狭間で迷走し、暗中模索が続く学校英語や効果の見えない英会話教室。議論百出の中、社会的にしかるべき立場にある人たちでさえ、まずはしゃべることが第一という日常会話礼賛主義に陥っていることに驚かされることもあります。 社会や高等教育現場で英語の必要性が高まる中、初等中等教育段階の子どもたちにとって未来につながる英語力とはどのような能力か、またどうすればそれを養成できるのか、英語教育の最先端の現場からこれらの課題に取り組みつつ真剣に考え、有用な情報を発信していく。これがこのサイトの目指すところです。 加速度的にグローバル化しているこの社会を現役として生きている私たち大人が、長期的かつ多角的に俯瞰した視点から、子どもたちに必要なことを伝え、方向性を示していく必要があるのですが、ともすれば私たちは現在の自分自身の視点で物事をとらえ、判断する傾向があります。自分が英語を喋れないで困っているからとか、もっと英語ができれば〇〇だったのになどと自分が抱えている問題を通して発想すると、「せめて子どもたちはしゃべれるように」といった安直な会話至上主義に陥ってしまうのです。実際は、子どもたちは英語が喋れないことで困っていません。当然ですが、今の彼らにはそんな必要はないのです。彼らは小、中、高、大と進学していく中でそれぞれの成長段階やタイミングに応じた英語力を必要としているのです。この問題は、そのような長期的視点から考えていかなければ有効な解答は見つからないように思います。 そうした視点で、現在初等中等教育段階の子どもたちが必要な英語力を考えると、彼らが高等教育を受ける段階でどのような英語力を習得している必要があるのかという到達目標を明確にしていくことが重要になります。彼らが将来留学し、海外の大学や大学院にチャレンジすれば膨大な量の本や論文を読まなければなりません。まずはそれを読みこなすことができて、それをベースとして、議論したりペーパー(レポート)を書いたりということが必要になります。すなわち、この「読む力」こそが、すべての基本となります。それは何も大学教育に限ったことではありません。社会人となって活躍するのにも日本語、英語に関わらず、報告書であれ、メールであれ様々な種類の多量の文書を読み、書くことができるリテラシーが必須です。そこに「しゃべれる」といった概念が先行することは決してありません。そして豊富で優良な読み(インプット)の活動を通してこそ、受け手に影響を与えられる発信(アウトプット)ができるようになるのではないでしょうか。子どもたちに今必要なのは、このリーディング活動を軸にしつつ、聞く、書く、話す、それぞれの能力のレベルを段階的に伸ばしていく英語学習なのです。留学までは考えていないという人も、すでに国内の大学が急速に国際化を進めており、入試も含めてグローバル化の中にあることはご存知の通りです。子どもたちの可能性を広げるために、この英語を「読む力」がまず必要とされているのです。 12月8日の日経新聞に掲載されたハーバード大学の日本人留学生、広津留すみれさんの記事の一部を紹介します。 「私は日本にいる時、自分で英単語をひたすら覚え、語彙を15,000語レベルまで増やし、スピード感のある多読によって、英文がすらすら頭に入ってくるようになりました。この英語力で、高3まで日本語で習っていた数学、化学、世界史などの受験科目を1年以内にすべて英語に変換して高得点を出すことができました。18年間塾に通うこともなく、ハーバード大の入試準備を1年間でやり遂げることができたのは英語が読めたからです。音符も人にはただのオタマジャクシの羅列に見えるかもしれませんが、演奏家の私には目に入ってきただけで音楽になって聞こえてきます。それと同じように、アルファベットという記号の羅列が、英語を読める人には情報の宝庫となるのです。」 九州の公立高校からハーバード大学へ進学し、音楽を専攻し学びつつ、学内最大のオーケストラのコンサートマスターも務めているという彼女の活躍を支えた英語力の源泉は読む力なのです。では、グローバル社会で活躍できる子どもたちの将来を見据えて、身につけさせたい「読む力」とは何か、次回はそのテーマについて記します。