「国際力」のはなし
昨年末に朝比奈隆についての大変興味深い紙面のコラムを見つけました。朝比奈氏は日本を代表する指揮者の一人で私は名前だけは聞いたことがあったのですが、詳しくは知りませんでした。連載物のコラムで年末にはすでに第8回とありましたので、第1回まで遡り読んでみました。その中から衝撃を受けた部分を抜粋します。
「留学されたこともないのに、きれいな英語やドイツ語で外国の演奏家と対等に話していてカッコ良かった。ほんものの教養があれば、それが国際力になるんだと思い知った。今はいくらでも留学できる時代ですが、自分なりの視座を持って学び、世界を深く思考していた大正時代の人の胆力にはかなわない。」2015年10月26日朝日デジタルより
これは朝比奈氏に師事した指揮者の一人が語ったものです。
どれだけのものか確かめたいと思いYouTubeへ。20年前のドキュメンタリーが出てきました (本当にいい時代になりました)。シカゴ交響楽団を振るということで、36時間掛けて神戸からシカゴへ赴く朝比奈氏。空港で出迎えられたときもオーケストラとのリハーサルでももちろん英語です。堂々とした「国際力」のなかに日本人特有の謙虚さが伝わってきました。
朝比奈氏と対等にいると思うのが指揮者の小澤征爾です。少し前に読んだ小澤氏の自伝はスクーター、ギターとともに貨物船で単身渡仏するところ始まります。まさに武者修行だったようで、貨物船からフランスに降り立ち同年に国際コンクールで優勝するまでのくだりは一種の冒険書のようでもありました。この自伝に何度もでてきて印象的だったのは「当時はあまり英語が話せなかった。もう少し話せたらなと思っていた。」というフレーズです。
海外での武者修行を通して世界に通用する「国際力」を身につけた小澤氏。片や日本にいながらして「国際力」を身につけ、留学をしなくても「ほんものの教養」があれば世界に通用するということを証明した朝比奈氏。どちらがベターということではなく、どちらも可能だということがわかります。
コラムにもあったように、「今はいくらでも留学ができる時代」です。海外に出なくても語学習得のツールは溢れています。インターネットに繋がっていればネイティブスピーカーが投稿している動画にアクセルもできます。ここで考えさせられるのは朝比奈氏が備えていた「ほんものの教養」とは何かです。英語を教える立場の人間として探求せずにはいられません。
朝比奈氏は指揮を大学在学中にメッテルというロシア人指揮者に師事しています。メッテル氏はそのメッテル氏はこう語ったそうです。
「大切なのは、クラシックという文化の本質を見据え、その技術と精神を己に徹底して叩(たた)きこむこと。相手の精神を、まず謙虚に学び尽くすこと。そうして初めて民族の差異を超え、世界を説得する自分たちだけの「言葉」を獲得することができる。」
2015年12月14日 朝日デジタルより
メッテル氏の言う「世界を説得する自分たちだけの『言葉』」。彼が語ったクラシックとは畑が違えど、これこそが「国際力」だと私は思います。